今日は2月4日、グアテマラでの初めての休日をのんびり過ごしています。乾季なのに1日中良く晴れたのは3日間だけ、毎日雨が降ったり止んだりしています。おかげで気温はそれほど上がらず過ごしやすいのですが、湿度はそこそこあります。
調査隊が滞在しているペテン県サヤスチェは、前回お話した通りパシオン川の渡し場にある町で、生活インフラはよく整備されています。街路には商店、雑貨屋が並び、ホテル、レストラン、そしてありがたいことに洗濯屋もあります。ときどき停電には見舞われますが、それでも小さな町の機能をフル活用させてもらって調査活動に専念できる幸せを日々噛みしめながら、地球のほぼ裏側で貴重かつ濃密な時間を過ごしています。それにしても、この1週間は次から次と想定外の出来事が起こるなか、現場の立ち上げ作業に慌ただしく時間が過ぎていきました。
税関でストップしていた荷物は、26日日曜日に無事に通過し、28日に4輌のトラックでグアテマラシティを出発。29日にサヤスチェの町の郊外の台船の組み立て現場で受け取る段取りになりました。北場さん、中川さんがグアテマラシティに行っている27日、ペテシュバトゥン湖からほど近いアグアテカ遺跡を見学に行きました。ボートでパシオン川を遡り、密林を歩き、峡谷を抜け、その道中ではワニ、ホエザル、ハキリアリ、サソリ、崖から落下死したコットゥーサと出会うなど、今まで経験したことがないような探検的な遺跡訪問となりました。
28日の午後、北場さん、中川さんがコーディネーターの五十嵐テルマさんと一緒にサヤスチェに戻ってきました。少し遅れて調査隊員の大森さんも日本からわたしたちと同じルートを経てサヤスチェに到着されました。
29日の朝、バジェ・デ・グアテマラ大学のフランシスコ・ペレスさん(ニックネーム:パンチョ)が合流。その後、サヤスチェの町にある環境局と考古局に挨拶に行きました。テルマさんと、同じく英語コーディネーターのホルヘ・マルドナードさんがスペイン語と流暢な日本語、英語で通訳してくれました。考古局の建物のすぐ傍に未発掘の小高い丘があり、軒先にはマヤ文字の刻まれた立派なステラが安置してありました。
次に、台船の組み立て現場に向かいました。未舗装の道を30分ほど走ってたどり着いたのは広大な牧場でした。牧場主のバルデマルさんが満面の笑みと握手で迎えてくれました。ゲートのすぐ傍に立派な白亜の建物があり、そこでランチboxを楽しみました。遠くの空を悠々と流れていく雲の下、牛の群れがのんびりと草を食んでいました。
ランチを済ませた後、今回の調査地となるエスカルバード村の方々とあいさつを交わしました。村の方々には今回の調査を了解して頂いただけでなく、現場仕事の補助や台船の夜間警備にも力を貸して頂くことになります。村の代表を務めるマルガリートさんは働き盛り、フレンドリーな笑顔には温厚な性格が滲み出ています。安心して頼りにできる仲間がまた一人増えた、そんな気持ちになりました。
午後3時に大型のクレーン車が、それから約30分遅れて掘削機材を満載した2輌の大型トラックが姿を現しました。隊員たちから「お~」という歓声が上がりました。湖に続く川まで一直線に伸びる私道を颯爽とこちらに向かってくるヒーローたちの姿に、胸を高鳴らせてシャッターを切り続けました。ところが、その30分後、思いもしない恐ろしい光景を目にすることに・・・。なんと、川岸に佇むクレーン車の車輪がズブズブと地面に沈み始めたのです。運転手は慌ててエンジンをかけましたが、車体はビクとも動きません。連日の雨で地盤が緩んでいました。この後、泥沼と化した舞台は大変なことに・・・。
大型トラックで牽引すれば脱出できるだろうという期待は外れ、2台のトラックを連ねて引けばなんとかなるだろうというさらなる期待もすぐに打ち砕かれました。そのたびにクレーンのアウトリガーで車体を持ち上げ、車輪の下に石を敷きつめて体勢を立て直します。いろいろ試してみた結果、車体の後ろにクレーンを回し、先端部のフックに幅20㎝ほどの牽引ベルトを掛けてトラックで引くことになりました。クレーンの運転手に代わって地主のバルデマルさんがハンドルを握ります。
1、2、3、バーモス!!
トラックのエンジンが大きく唸り、一瞬、クレーン車の車体が持ち上がりました。クレーン車は泥沼を脱して10mほど前進して止まりました。わたしたちは握手やハイタッチをして喜びを分かち合いました。気が付けば夕暮れが迫っていました。トラックの荷下ろし作業は明日に持ち越すことにして、現場を離れる前にもう一度アウトリガーの下に石を敷いて車体を安定させました。そして出発、座席でほっと一息つく間もなく、今度はわたしたちを乗せた車がスタックしてしまいました。もう、誰も何も言いません。すぐに車を降りて、暗闇のなかスマホの明かりを頼りにみんなで車を押しました。ふと夜空を見上げると星々が明るく輝いていました。その輝きにしばらく見とれていると、南の空を流れ星が流れていきました。
30日、今日から6時に朝食を食べて、7時に現場に向かう日々が始まりました。サヤスチェの川岸からボートに乗り込み、最初に向かったのは少し上流にある木材売り場。ここでクレーン車のアウトリガーの下に差し込む枕木を手に入れました。現場に8時過ぎに到着。まず、枕木を使ってクレーン車の水平を確保しました。これで、ようやくクレーンを動かして荷下ろしの作業ができるようになりました。北村さんと佐田さんが手信号を使って慎重に作業を行います。その間に台船を積んだ3輌目のトラックが到着し、こちらは人力で荷下ろしを行いました。正午過ぎにやっと荷下ろしが完了。本来ならとっくに帰路についていただろうトラックの運転手さんたちは、やれやれといった表情を残して現場を去っていきました。ついでにカウボーイハットを被った運転手さんご夫婦には素敵な写真を撮らせてもらいました。そして、この2日間現場立ち上げに奔走してくださった五十嵐テルマさんもグアテマラシティに帰って行かれました。みなさま、本当にお疲れさまでした!
午後はダンプトラック8台分の土砂が運び込まれ、ブルドーザーが地面を慣らしてくれました。まるで道路建設の工事現場のような状態が半日ほど続きました。午後4時に台船を積んだ小型トラックの最終便が現場に到着しました。クレーン作業と並行して、台船の一部の組み立てを行い、午後5時過ぎに作業を終えました。
31日の朝、バジェ・デ・グアテマラ大学のアンドレス・パルマさん(ニックネーム:ティティ)が合流。7時にボートに乗り、8時に現場に到着。すぐに台船の組み立て作業が始まりました。川辺の広いスペースに枕木を敷いて、鉄骨を格子状に並べて枠を作ります。完成したら一度クレーンで移動し、同じ場所に台船本体となる1m×2m×0.5mの発砲スチロールの立方体6個×2段を左右2セット並べて、先ほど組んだ鉄骨の枠を戻して、両者をラチェットベルトで強く縛ります。完成した台船はクレーンで吊って川に浮かべて、さらにエンジンを載せて、午後4時に作業を完了しました。強い日差しが照り付けるこれまでで一番暑い一日となりました。雲間から日が差し始めた昨日の午後から今日一日で肌の色がすっかり褐色に変わりました。また、ようやく時差ボケが解消し、心身ともに現地に馴染んできました。
2月1日の朝、バジェ・デ・グアテマラ大学のサマンサ・コルテスさんが合流。土曜日ですが休日を先に延ばして作業を続行しました。ワーカーさんたちには申し訳ないのですが、休むと、その分だけクレーン車の費用がかさむことになります。朝8時から台船への掘削機材の積み込みを行い、三角形のタワーを台船に固定し終えたのが午後1時半。なんとか役目を果たしたクレーン車は新しく敷き詰められた土砂の上で10回以上ハンドルを切ってから、ゆっくりと去って行きました。
川に浮かべた台船を背景に集合写真を撮影しました。みんな、とても良い顔をしています。たくさんのトラブルを共に乗り越えることで、少し絆が深まったようにも感じます。
また、台船の組み立て作業の様子をタイムラプス機能を使って撮影してみました。突然始まった土砂入れ作業のため移動を余儀なくされたり、クレーン車に三脚ごと倒されてしまったりとハプニングが続いたものの、何とかみなさまにお見せできる映像が撮れたのではないかと思います。日が暮れた後にカメラを撤収してくれたのも台船の夜警に当たってくれた村のワーカーさんでした。本当にありがとうございました!